クラスメイトは俺に向かって人差し指を立て
「これ何本か見える?」とせせら笑い、からかう。
そうだ。俺は生まれつき視力が悪くメガネをかけていた。
手先も不器用、運動神経も鈍く、学業成績も平均点以下。
みんなから「のび太!」と言われ、いじめられた。
ランドセルを3つ持って帰路を歩く。
それは両親でさえも同じだった。
学校から帰宅すれば、ことあるごとにオカンは俺に
「お前は何も出来ないコだ。」と言い続けた。
しかし、言い返せなかった。
情けないほど臆病だった。
自殺も考えた。しかし。それは絶対に出来なかった。
俺にできること、それは「勉強」。
勉強にその後の学業生活の全てを捧げた。
結果、中学3年の最後の総決算である実力テストで
学年1位をとり卒業した。だがそれでもオカンは言った。
「中途半端に勉強が出来るコ」
怒りは解消されないまま、私立中堅進学校への入学が決定。
県をまたいでの転居となり、俺を知る人は
周りに誰一人としていなくなる。
「ここしかない!」
俺はメガネをコンタクトにし、美容院に行き髪型を変えた。
そして筋トレを始め体も大きくし、喋り口調もクラスの人気者、
やんちゃしてたヤツをひたすら真似た。
俺と、俺の周りが変わりはじめた。
多くの友達に恵まれ、勉強も常にトップクラス。
俺を見る周りの目は180度変わった。
だが、それでもオカンだけは違った。
誰を殴り飛ばしても、言い負かしても、
同志社大学への入学が決まっても
「勉強以外は何も出来ないコ」
そんな中、俺は個別指導塾の講師アルバイトで
ケンカや窃盗など悪さばかりして「どうしようもないバカ」
のレッテルを貼られたヤツらを担当することになる。
そのクラスには、真面目で内気でなかなか心の扉を
自ら開けようとはしない、逆の意味での問題児もいた。
彼らの親は俺に言った。
「とにかく学校の成績が低くてどうしようもないんです。
このままじゃあ進級、卒業すら危ないんです。助けてください。」
だけどそんな親を見て、俺は自分が認めてもらえなかったゆえに
抱えていたコンプレックスを、バカのレッテルを背負わされ
自尊心を傷つけられている少年少女に重ねていた。
俺の受け持ったクラスの名称は
通称「ジャングル教室」
生徒は血だらけの拳で宿題もせず、
しかも鉛筆1本だけポケットに入れてやって来ては
「先生きいてやぁ」
からはじまる。
「いきなりドロップキックされてん」
「そんなん3対1なんか勝てるわけないやん」
「先生、昔喧嘩つよかった?」
あるいは
「私いじめられてるねん」
「しかも彼氏がさぁ」
という悩みを聞くところからはじまる。
もはや勉強どころじゃない。
だが俺は勉強以外の生徒からの相談にも当然のようにのった。
喧嘩のこと、盗みのこと、いじめのこと、親のこと・・・
公私混同し、めちゃくちゃプライベートに踏み込んでいた。
そして生徒たちは変わって行った。
俗に言う「更正」というやつだ。
だが俺は、あいつらが「更正」したなんて思ってない。
あいつらは最初からイカレてなんかない。
そのことを教えただけだ。
でも実際のところ、それだけでいい。
ただそれだけでいいのに、
世の大人たちにはそれが分からない。
「俺にしか救えない人間がいる」
そんな気がした。
時は流れ、俺は大阪国税局に入局し、
国税徴収官として配属された。
俺は俺の判断で、令状なしに会社事務所のガサ入れや
差押えなどを実行することが出来るようになった。
また、国税局への入局を勧めたのはオカンだった。
入局後、ようやくオカンにも認めてもらえた。
しかし、つまらない上司との飲み会、全然尊敬できない先輩、
仕事ができない同僚、ぼんくらすぎる社長たち・・・。
職場の上司にも、先輩にも、こんなものを
「聖域」だとして推薦したオカンにも、嫌気が差した。
俺は独立を決意した。
副業は禁止だった。だが、知ったこっちゃなかった。
まずはとにかく勉強。勉強。勉強。
仕事から帰宅後は眠い目をこすりながら
パソコンの前に向かって作業を続けた。
最初は全くもってお金を稼ぐことが出来なかったが、
地道にコツコツ毎日作業を続けた結果、徐々に成果が出始める。
数ヶ月後それまでの月収を超え、俺は上司に辞意を伝えた。
当然のごとくオカンも猛反対した。
「お前にビジネスなんて出来るわけがない!」
だが、俺の意志は固く曲げるつもりは全く無かった。
両親には黙って独断で辞表を出した。
親は泣いた。
しかしやはり、知ったこっちゃなかった。
独立を決めた俺は変わり者と言われるかも知れないが、
国税局に勤めていても懲役40年だ。
俺はそんなルーチンをアホみたいに続けられる方こそ
変わり者の極みだと心底思った。
独立して以降、俺は黙々とパソコンに向かって作業をした。
一人で暮らしていくためには十分なお金を毎月稼いだ。
行きたい場所に行き、食べたいものを食べ、何時に寝ても起きても
誰も俺を咎めなかった。束縛するものは無かった。
すると、なんだかんだ言って周りのみんなも認めてくれるようになった。
「公務員なんて普通辞めないのに、独立して一人でやってるってスゴイね」と。
素直に嬉しかった。
だが、心のどこかが満たされなかった。俺の周りは皆サラリーマンだった。
平日は夜遅くまで勤務し、休日は平日の疲れを癒すだけで精一杯。
そんな人間たちばかりだった。
そう。俺は孤独だったんだ。
お金を稼ぐ力を手にした一方で、
やっぱりただの寂しい1人の人間だった。
だから、インターネット上で俺の考えを発信することにした。
別に大義使命があったわけじゃない。
ただ、誰かに聞いてほしかった。
ネットでの発信をはじめて暫く。
仲間がほしかっただけの俺に返って来た反応に愕然とする。
インターネットには俗に言う
"情報弱者"
が蔓延していた。
「実はいじめられてるんですけど・・・」
「仕事をやめたいんです!上司がうざいし出会いもないし・・・」
「僕にも出来ますか?楽して稼ぎたいんです!なんとかしてください!」
・・・情弱と呼ばれる人たちは、はっきり言ってゴミカス。
実力に見合わない高望みばかりするクセに、自分では何もしようとしない。
更に悪いことに、そこにつけ込まれ、
高額な商品を売りつけられているケースのなんと多いこと。
情弱は裏でバカにされていることに、騙されていることに・・・
気づいていないようだった。
いいや、うすうすは気づいているかも知れないが、
認めたがらない。マジでピエロ。救いようがない。
そんな情報弱者のピエロマインドに対して
あらゆる仕掛けをしていく側の人間たちは容赦がない。
彼らは、心理学をはじめとした無数のテクニックを使い、
どんな商品・サービスでも売ることができる。
腐ってると思った。
同時に、あの個別指導塾を思い出していた。
俺にしか救えない人間が、ここにもいた。